ビビり神経内科専攻医の日常

神経内科一年目です。日々ビビっています。

HBs抗原陽性! 非活動性キャリア・・・消化器内科に紹介します???

最近よくHBs抗原陽性の人を見ます。ステロイド投与するとかなら迷わず紹介しますが、キャリアと言うだけで紹介してよいものか。。。。

 

臨床的疑問:HBs抗原陽性の非活動性キャリアパターンを消化器内科に紹介するべきか。

とりあえず、知識の確認。まちがっているかもしれませんが、、、

まず肝炎とは「ALT・HBV-DNAが上昇しているか」である。慢性肝炎はHBe抗原陽性・陰性にわけられる。治療対象は①組織学的進展度②ALT値③HBV-DNA量で決められる。疑わしきをフォローしてもらうのは治療対象であるか、肝細胞癌に移行していないか。

 

HBs抗原は治療対象のinclusionに入っていない。長期予後への関連は不明であるが、セロコンバージョン・HBVDNA低値例でもHBsAg高値で肝細胞がんのリスク上昇する可能性がある。

◼︎ HBVの自然史
①:免疫寛容期:無症候性キャリア
②:免疫応答期:肝炎となる(HBe抗原陽性肝炎)。HBe抗原が消失するとHBVDNA低下すると非活動性キャリア
③:低増殖期:セロコンバージョンしてもHBVが増殖(10-20%:HBe抗原陰性肝炎、間欠的に激しい肝炎を起こす。)
④:寛解期:HBs抗体が陽性となる
 

さて、抗体・抗原ごとに確認します。HBs抗体などスクリーニング以外の抗体も提出したことを想定します。いろいろ考えましたが以下のように整理してみることにしました。

①HBe抗原陽性:

酵素陰性:無症候性キャリア、肝酵素上昇:慢性肝炎(HBe抗原陽性)

②HBe抗原陰性:

  A)HBs抗原陽性:肝酵素上昇:HBe抗原陰性慢性肝炎、陰性:非活動性キャリア

  B)HBs抗原陰性:HBc抗体陽性であれば既感染、陰性ならワクチン

でだいたい分けられると思います。

 
 
さて、非活動性キャリアの定義は「1年のうち3回以上ALT<30、HBe抗原陰性、HBV-DNA量<3.3Log copy/mL)」となっています。HBe抗原陰性肝炎というのが厄介なわけですね。
 
まとめると
・HBs抗原陽性、HBe抗体陽性、HBe抗原陰性患者でALT・HBV-DNAが陰性であってもHBe抗原陰性肝炎に移行することがあり、かつ繊維化の評価も必要なので消化器内科が望ましい。とぼくは考えます。
 
参考:
・ジェノタイプAは欧米に多い、急性肝炎後、感染が遷延化してキャリア化しやすい
・Bj1896変異があると劇症化しやすい

 

下腿のDVTは抗凝固療法をすべきだろうか??

 
下肢静脈エコーの練習中です。下腿ってむずかしいですよね。神経内科だと座位をとれない方が多いので、膝をささえる腕がつかれますし、静脈が虚脱しちゃってわかりにくい。。実は前の施設だと全部検査技師さんがやってくれたのです。Ddimerがあがってたらとりあえずポチッと依頼していたことを反省します。。
 
さて、指導してくれる上級医から
「下腿の静脈血栓症はPEになるエビデンスがない、治療もしなくていよい」
と聞きました。じゃあこの検査しなくていーじゃん。
 
うーん、でも研修医のころヒラメ筋静脈血栓症でも抗凝固入れていたことあるなぁ。。でも耳学問だけでちゃんと調べたことないなぁ。確か循環器のガイドラインには中枢・末梢での治療方針の違いは記載なかったんだっけ。。。
 
臨床的疑問:distal DVTに抗凝固療法を行うべきか?
 
基礎知識:
Robert-Ebadi, H., & Righini, M. (2017). Management of distal deep vein thrombosis. Thrombosis Research, 149, 48–55. https://doi.org/10.1016/j.thromres.2016.11.009
(非常にまとまったレビューです)
 
・isolated distal DVT(膝下より遠位)は超音波で診断される下腿DVTの30-50%を占める。入院中の患者に限れば80%が近位で、20%がdistalだった。distal DVTが近位に伸展するか、PEの原因となるかはわかっていない(リスクじゃないとは限らないってことだ。)
・distal DVTがproximalに伸展するか、PEに至るかは報告によって様々である。約20%が中枢に伸展するという報告もあれば3-3.7%という報告もある。(2016年のsytematic reviewによると0-35%で平均すると9%とのことだ。)無治療の末梢型DVTの盲検化試験では無治療でもPEは1.6%のみしかおこらなかった。
 
っていうかそもそも膝下以下の静脈を超音波で検査するべきかってことも結論がついていない。古典的には以下の二つのやりかたが主体のようだ。
 
Serial proximal CUS:
DVTを疑う患者に近位(大腿静脈・膝下静脈)のみの超音波検査を行う。1回目でpositiveであれば抗凝固療法を開始。negativeなら1週間後に再検査してpositiveなら治療開始、negativeなら治療しない。この方法を採用した6つの前向き試験では3ヶ月後の血栓塞栓リスクは0.6%程度だった。Ddimerと臨床的な可能性とa single proximal CUSの組み合わせでも2.6%だった。欠点としては2回も検査しなくちゃいけないってこと。
 
Single complete CUS:
遠位までの静脈を検査。ただし一回だけ。これも3ヶ月の血栓塞栓リスクは0.6%程度だった。しかしこの結果には反論もある。distal DVTを検出・治療することで塞栓リスクが下がるとは言えないからだ(近位のみしかみていない時と同じリスクなわけだし)。そもそも遠位の静脈血栓を検出すること・除外することは手技的にむずかしいでしょうという元も子もない話。
 
これを前向きのRCTで確かめると
3ヶ月後の血栓塞栓症リスクは0.9% vs 1.2%(有意差なし)。278のDVT症例のうち65症例のdistal DVTが治療されたがリスクを減らしていない→distal DVTって治療しなくてよいのでは。そして治療しなくていい人も治療してしまっているかもね。
まとめるとTable 5
 
 
Siragusa, S., & Imberti, D. (2008). Serial 2-Point Ultrasonography Plus D-Dimer vs Whole-LegColor-CodedDopplerUltrasonography for Diagnosing Suspected Symptomatic Deep Vein Thrombosis. Jama, 300(14), 1653–1659. https://doi.org/10.1001/jama.300.14.1653
 
ガイドラインではどうなっていますか?
ACCPのガイドライン2016では高リスクの人に治療してもよいかもしれない。と書いている。高リスクはTable6みたいな人たち
 
JCSのガイドライン、2017年に更新されています。JCS 2017 ガイドライン
循環器内科のガイドラインは本当にわかりやすいですね〜
同じ血管を扱っている某学会のガイドラインは羅列のみでよくわかりませんし。。
 
そもそも下腿の超音波が推奨されているのは日本独自。なんだって。。CHEST 第9版のガイドラインではリスクがすくないので下腿までの検査は推奨していない。リスクの少ない末梢型DVTには抗凝固療法を施行せず、7-14日後に超音波を再検査して中枢側に伸展する例、高リスク例では抗凝固療法を行う。CACTUS trial というACCPのガイドラインが出版されたあとのRCTでは症候性distal DVTは治療すると出血が増えて血栓リスクはへらなかったとのこと。まぁようはリスク・ベネフィット考えてねって結論。
 
特に神経内科医はむしろDVTを見つけたい人種ですから(ESUSへのDOAC導入という大義名文)血栓療法をどのみち投与するような脳梗塞患者において、distal DVTがみつかれば治療対象とする、それ以外の患者では入院中は頻回フォローしておくという考えをもっていてもよいのかもしれません。rule inかrule outかということですね。

PVC・NSVTは安全か?

症例は70代男性、虚血性心疾患に対してPCI術後、今回は右中大脳動脈のアテローム血栓脳梗塞で入院中 でリハビリ転院待ち。

せん妄への連日の対応でストレスが溜まっている看護師さんより、

 

「先生、〜さん何度も何度もPVCでモニターが鳴るんです。様子見でいいですか。指示ください!」

 

モニター心電図を確認すると確かにPVC〜NSVTが何度かでているようだ・・・ベッドサイドのエコーで見る限り心機能は悪くない。

 

(研修医の頃はPVCとかNSVTって症状ない限り様子見でいいって習ったような。。でも本当にそれでいいんだろうか。。冠動脈疾患もあるしなぁ。怖いなぁ。。。)

 

臨床的疑問:PVC・NSVTは安全か?(背景疑問)

背景疑問である。

・PVC〜NSVTはどのような時にVT/VFのリスクとなるのか

・PVC〜NSVTは心不全のリスクとなるのか

・上記を防ぐために予防的治療を行うべきか。

・薬物的治療はあるか。

 

教科書的知識を復習。

・周期的なPVCは自動能によるものでそんなに怖くない。

・不規則な場合、心筋細胞内の筋小胞体からカルシウムがリークすることによって生じる(triggered activity)。心室の心筋に障害がある(心不全)ことを示唆。

・V1が左脚ブロック型なら右室、逆なら左室

・Ⅱ、Ⅲ、aVf(下から見た)のQRSが上向きなら上からきてる(流出路から)、逆なら心尖部から

RVOT起源でなく、NSVTで、形も変わっていくようなPVCは危険

 

AHAの2017年のガイドラインをみてみると

・PVCsは12誘導で見ると頻度は少ないが、ホルターなどで長期間モニターすると50%の人にみられる。 2分間のモニタリングでPVCが見られる人では虚血性心疾患や死亡率のリスクが上昇していた(ARIC研究)12誘導で1波形、もしくは1時間で30発以上のPVCが見られる場合は死亡率や心疾患のイベントと相関していた。心疾患のない人でNSVTじゃなくてもホルター心電図でPVCがみられると死亡率が上昇していた。ARIC研究では脳卒中との関連もある。

・>10,000 to 20,000/日ぐらい頻回に起こる例では LVEF低下と関連していた。そしてPVCをコントロールすることで心機能が改善した。という報告もあり。 (PVC-Induced Cardiomyopathy.)

→PVCは背景の心疾患を示唆する。もしかするとPVC自体が心機能を悪くしているかもしれない(ここらへんは異論があるよう)

 

続いて ランドマーク研究。CAST studyってなんか聞いたことあるな。。。

CAST cardiac arrhythmia suppression trial NEJM 1991

1991年の研究である。私が1歳の頃である。背景として心筋梗塞後のPVCは予後に関わる。PVCを減らしたらOMI患者の予後が改善するのでは?という最もな意見。

P:1498人の心筋梗塞後の患者

I:フレカイニド、エンカイニド

C:プラセボ

O:心臓死

結果は逆に不整脈薬投与群の死亡が増えたとのこと。PVCは予後に関係するが、PVCを減らしても予後は改善しない。むしろ不整脈薬は予後を悪化させる。

up to date様をみると不整脈薬を使用する場面もあるようだが非専門医としてはこの程度で許してもらいましょう。。

 

じゃあ他に治療があるかをみると up to date様には「症候性PVCにはβB>CCBがよく効きます。」と記載あり。

JCSのガイドラインをみると波形で治療方針を変えている。

・右脚ブロック型:Caブロッカー(ベラパミル、ジルチアゼム)

・左脚ブロック型:βブロッカー(プロパフェノン)

ここらへんの生理学はわかりません。心筋梗塞が背景にある場合は(いろいろ書いていますが)、症候性or非持続性心室頻拍が重症型(頻拍レートが120~200/分 では5連発以上,200/分以上では3連発以上を重症型と する)の場合には循環器内科に相談した方が良さそうです。(ソタロールやアミオダロンを使うようです)

 

まとめると

・PVCがある人は心臓が悪いです。12誘導みたいな短時間で見つかる人は心疾患イベントのリスクです。でもそういう人としか言えません。

・かといってPVCをなくすような抗不整脈治療は有害と思われます。

・波形をみて起源を確認しておきましょう。連発する場合は症状を確認。

・症候性は治療介入してみましょう。個人的に使いやすいのはベラパミルかな・・

・OMI患者で、症候性もしくはレートが早い例では循環器内科に相談してみましょう。

 

結局、この患者では虚血性心疾患既往にあるという事実は変わらないので「SVTへの移行や症候性とならない限りは経過観察」という指示にしました。心臓はやっぱり怖いよね。。