ビビり神経内科専攻医の日常

神経内科一年目です。日々ビビっています。

下腿のDVTは抗凝固療法をすべきだろうか??

 
下肢静脈エコーの練習中です。下腿ってむずかしいですよね。神経内科だと座位をとれない方が多いので、膝をささえる腕がつかれますし、静脈が虚脱しちゃってわかりにくい。。実は前の施設だと全部検査技師さんがやってくれたのです。Ddimerがあがってたらとりあえずポチッと依頼していたことを反省します。。
 
さて、指導してくれる上級医から
「下腿の静脈血栓症はPEになるエビデンスがない、治療もしなくていよい」
と聞きました。じゃあこの検査しなくていーじゃん。
 
うーん、でも研修医のころヒラメ筋静脈血栓症でも抗凝固入れていたことあるなぁ。。でも耳学問だけでちゃんと調べたことないなぁ。確か循環器のガイドラインには中枢・末梢での治療方針の違いは記載なかったんだっけ。。。
 
臨床的疑問:distal DVTに抗凝固療法を行うべきか?
 
基礎知識:
Robert-Ebadi, H., & Righini, M. (2017). Management of distal deep vein thrombosis. Thrombosis Research, 149, 48–55. https://doi.org/10.1016/j.thromres.2016.11.009
(非常にまとまったレビューです)
 
・isolated distal DVT(膝下より遠位)は超音波で診断される下腿DVTの30-50%を占める。入院中の患者に限れば80%が近位で、20%がdistalだった。distal DVTが近位に伸展するか、PEの原因となるかはわかっていない(リスクじゃないとは限らないってことだ。)
・distal DVTがproximalに伸展するか、PEに至るかは報告によって様々である。約20%が中枢に伸展するという報告もあれば3-3.7%という報告もある。(2016年のsytematic reviewによると0-35%で平均すると9%とのことだ。)無治療の末梢型DVTの盲検化試験では無治療でもPEは1.6%のみしかおこらなかった。
 
っていうかそもそも膝下以下の静脈を超音波で検査するべきかってことも結論がついていない。古典的には以下の二つのやりかたが主体のようだ。
 
Serial proximal CUS:
DVTを疑う患者に近位(大腿静脈・膝下静脈)のみの超音波検査を行う。1回目でpositiveであれば抗凝固療法を開始。negativeなら1週間後に再検査してpositiveなら治療開始、negativeなら治療しない。この方法を採用した6つの前向き試験では3ヶ月後の血栓塞栓リスクは0.6%程度だった。Ddimerと臨床的な可能性とa single proximal CUSの組み合わせでも2.6%だった。欠点としては2回も検査しなくちゃいけないってこと。
 
Single complete CUS:
遠位までの静脈を検査。ただし一回だけ。これも3ヶ月の血栓塞栓リスクは0.6%程度だった。しかしこの結果には反論もある。distal DVTを検出・治療することで塞栓リスクが下がるとは言えないからだ(近位のみしかみていない時と同じリスクなわけだし)。そもそも遠位の静脈血栓を検出すること・除外することは手技的にむずかしいでしょうという元も子もない話。
 
これを前向きのRCTで確かめると
3ヶ月後の血栓塞栓症リスクは0.9% vs 1.2%(有意差なし)。278のDVT症例のうち65症例のdistal DVTが治療されたがリスクを減らしていない→distal DVTって治療しなくてよいのでは。そして治療しなくていい人も治療してしまっているかもね。
まとめるとTable 5
 
 
Siragusa, S., & Imberti, D. (2008). Serial 2-Point Ultrasonography Plus D-Dimer vs Whole-LegColor-CodedDopplerUltrasonography for Diagnosing Suspected Symptomatic Deep Vein Thrombosis. Jama, 300(14), 1653–1659. https://doi.org/10.1001/jama.300.14.1653
 
ガイドラインではどうなっていますか?
ACCPのガイドライン2016では高リスクの人に治療してもよいかもしれない。と書いている。高リスクはTable6みたいな人たち
 
JCSのガイドライン、2017年に更新されています。JCS 2017 ガイドライン
循環器内科のガイドラインは本当にわかりやすいですね〜
同じ血管を扱っている某学会のガイドラインは羅列のみでよくわかりませんし。。
 
そもそも下腿の超音波が推奨されているのは日本独自。なんだって。。CHEST 第9版のガイドラインではリスクがすくないので下腿までの検査は推奨していない。リスクの少ない末梢型DVTには抗凝固療法を施行せず、7-14日後に超音波を再検査して中枢側に伸展する例、高リスク例では抗凝固療法を行う。CACTUS trial というACCPのガイドラインが出版されたあとのRCTでは症候性distal DVTは治療すると出血が増えて血栓リスクはへらなかったとのこと。まぁようはリスク・ベネフィット考えてねって結論。
 
特に神経内科医はむしろDVTを見つけたい人種ですから(ESUSへのDOAC導入という大義名文)血栓療法をどのみち投与するような脳梗塞患者において、distal DVTがみつかれば治療対象とする、それ以外の患者では入院中は頻回フォローしておくという考えをもっていてもよいのかもしれません。rule inかrule outかということですね。